Dynamics 365 Customer Engagement(以下D365 CE)では、見積書・請求書・契約書などのPDF帳票出力のニーズが非常に頻繁に発生します。業務ユーザーから「1クリックでPDFが欲しい」「帳票レイアウトは指定通りに」といった要望を受けることは少なくありません。
本記事では、D365におけるPDF出力の代表的な実装パターンを紹介し、要件に応じた選択肢や実践的な設計ポイントについて解説します。
標準機能:Wordテンプレート + Export to PDF
もっとも簡易かつノーコードで対応できる方法が、Wordテンプレート機能を用いたPDF出力です。
概要:
・対象エンティティ(例:見積、請求)からテンプレートをダウンロード。
・Word上でコンテンツコントロールを使ってフィールドを差し込み。
・D365へアップロードし、リボンバーにPDF出力ボタンを設置。
メリット:
・ノーコードで導入可能。
・保守性が高い。
・中程度の帳票レイアウトに対応。
デメリット:
・サブグリッドや複雑な表形式には不向き。
・自動送信・自動保存には別途Power Automate等が必要。
Power Automate連携による自動PDF出力
WordテンプレートとPower Automate(旧Flow)を組み合わせることで、PDF生成とメール送信・SharePoint保存などを自動化できます。
よくある構成:
・ボタン押下またはレコード更新をトリガーに。
・WordテンプレートをPDFに変換。
・メール添付で送信、またはSharePoint/Noteへの保存。
カスタム開発:HTML + JavaScript / プラグインでPDF生成
レイアウトや日本語帳票要件が複雑な場合は、HTMLテンプレートとPDFライブラリによるカスタム実装が最適です。
技術構成例:
・FetchXMLでデータ取得し、HTMLテンプレートに差し込み。
・jsPDF / pdfMake(クライアント)やiTextSharp / Puppeteer(サーバー)でPDF生成。
・リボンボタンからトリガー、生成物はNotesなどに保存。
メリット:
・自由度の高いレイアウト設計。
・QRコード、画像、署名、サブグリッド等も対応可。
・UIに統合しやすい。
デメリット:
・開発工数・コストが高め。
・エラーハンドリング・認証制御が必要。
ISVソリューション:DCP、Xpertdocなど
エンタープライズ向けには、DocumentsCorePack(DCP)やXpertdocなどのサードパーティ製品を使うことで、以下のような機能を容易に実現可能です:
・複数テンプレート管理
・条件分岐・差し込み論理
・電子署名(DocuSign連携)
・多言語対応・PDF送信・ログ管理
その他の実装パターン
Power Pages + PDFダウンロード
Power Pagesを通じて外部ユーザーに帳票を提供し、JavaScriptやAzure FunctionsでPDF生成・ダウンロードリンクを提供するパターン。
適用例: 顧客ポータル、外部配布帳票など。
SSRS帳票(旧レポート機能)によるPDF出力
D365と連携したSSRS(SQL Server Reporting Services)でPDFを生成する方式も依然として利用されています。
適用例: 複数エンティティを集約したレポート、ページ分割、集計が必要な帳票。
Azure Logic Apps + REST PDF API
Azure Logic Appsと外部PDF APIを組み合わせた柔軟な構成。大規模帳票やシステム連携に強み。
ベストプラクティスと設計のポイント
権限制御と監査ログ
・PDF出力の操作ユーザーを記録。
・帳票に「出力者・日時」などを埋め込む。
・生成履歴を独自テーブルに記録(監査対応)。
テンプレートの標準化と管理
・テンプレートをエンティティでバージョン管理。
・Canvas AppやModel-driven Appで管理画面を用意。
・適用中のテンプレート+データの組み合わせを記録。
Summary
シナリオ別の実装選定
業務シナリオ | 推奨方式 |
---|---|
シンプルな帳票 | Wordテンプレート + PDF出力 |
自動メール送信・バッチ処理 | Power Automate + Word |
複雑レイアウト・ブランド帳票 | HTML + PDFライブラリ開発 |
外部ユーザー向け出力 | Power Pages + PDFリンク |
規制業界・署名・電子化管理 | DCP/XpertdocなどISV |
実装パターン比較表
手法 | 適用範囲 | 長所 | 短所 |
---|---|---|---|
Word + Export to PDF | 標準帳票 | 簡単・保守性高い | 表現力が限られる |
Power Automate連携 | 自動化・通知 | 拡張性高い | 書式制限あり |
HTML + PDF | 高度な帳票 | 完全カスタマイズ可 | 工数多め |
ISVツール | 企業向け | テンプレ管理、署名対応 | ライセンス必要 |
Power Pages | 外部公開帳票 | セキュアな外部連携 | 構成やや複雑 |
SSRS帳票 | 多表・分析レポート | 高性能な集計処理 | クラウド非推奨構成 |
まとめ
Dynamics 365でのPDF帳票出力は、「簡易な1枚帳票」から「複雑なレイアウトと自動化、外部連携」まで、多様な要件に応じて柔軟に対応できます。
まずは標準機能で8割カバーできるかを確認し、要件に応じてPower Automate・カスタム・ISVツールの選定を検討しましょう。
また、帳票は単なる出力機能ではなく、セキュリティ・監査・長期運用も意識した設計が求められます。
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