Dynamics 365において、「パフォーマンス」は頻繁に議論される非常に重要なテーマです。
しかし、パフォーマンス問題は単一の視点では語れません。ユーザー体験、システム設計、インテグレーション、データ運用など、様々な要素が影響します。
本記事では、D365プロジェクトにおけるパフォーマンス最適化で特に意識すべきポイントを整理してご紹介します。

フォームロードのパフォーマンス
ユーザーから最もよく聞く不満の一つが「フォームが遅い」です。
- フィールド数の増加:画面上に大量のフィールドを配置すると、ロード時間が著しく増加します。
- JavaScriptとビジネスルール:同期処理が多いと、フォーム表示が遅延します。
- プラグインやワークフロー:フォームロード時に裏で走る処理が多いと、初期表示に時間がかかります。
- サブグリッドの設計:関連レコードのプリロードを避け、必要に応じてデータ取得する設計が望ましいです。
ベストプラクティス:フォームは軽量化を意識し、必要なデータのみオンデマンドで取得しましょう。
また、Maker PortalのPerformance Insightsツールで定期的に確認することが推奨されます。
データ取得・クエリパフォーマンス
大量のデータ取得や、複雑なクエリはシステムパフォーマンスに大きな影響を与えます。
- FetchXML・クエリ設計:結合(Join)が多い、列数が多い、5,000件以上を一括取得するなどのクエリはリスクです。
- ビュー・ダッシュボード:集計フィールドや複雑な条件式を含むビューは読み込みに時間がかかります。
- API呼び出し:Retrieve Multipleを無制御で大量実行するとタイムアウトする可能性があります。
ベストプラクティス:必要最小限の列・条件で設計し、ページングやフィルタリングを積極的に使いましょう。
プラグイン・ワークフロー・Power Automateフロー
カスタムロジックは、知らないうちにパフォーマンス問題を引き起こすことがあります。
- プラグイン:同期プラグインで重い処理(外部API呼び出し、複数レコード更新など)を行うと、レコード保存時に遅延します。
- ワークフロー(リアルタイム):リアルタイム処理が多すぎるとユーザー操作に支障をきたします。
- Power Automateフロー:トリガー回数が多すぎる、あるいは一括処理系フローが過負荷を起こすケースもあります。環境・インフラ設定
ベストプラクティス:同期処理は最小限に抑え、極力非同期化(例:背景ワークフロー、非同期プラグイン)を検討しましょう。
インテグレーション・外部システム連携
外部システムとの連携が絡む場合、パフォーマンスへの影響はさらに大きくなります。
- 外部APIレイテンシ:D365側が外部APIの応答待ちになると、ユーザー体験に直接悪影響を及ぼします。
- バッチ処理:大量データの一括取り込み・更新を無制御で行うと、環境全体のリソース枯渇につながります。
ベストプラクティス:
外部連携は非同期パターン(Azure Service Bus、Event Gridなど)を基本とし、リトライ処理やサーキットブレーカー設計を取り入れましょう。
環境・インフラ設定
パフォーマンス問題は、ソリューション設計だけでなく、環境・インフラにも起因する場合があります。
- 容量制限:ストレージ不足、APIスロットリング、環境サイズ制限などに注意が必要です。
- ネットワークレイテンシ:ユーザーとデータセンターの地理的距離も無視できません。
- Dataverseリミット:APIのサービス制限(バースト制限、同時接続数制限)を理解し、設計に反映させましょう。
ベストプラクティス:
Power Platform Admin Centerのリソース使用状況を定期的にモニタリングし、必要ならばプレミアムストレージへのアップグレードも検討しましょう。
データボリューム管理
D365において、100万件を超えるレコード量になると、検索・更新・表示すべてにパフォーマンス影響が出始めます。
- アーカイブ・削除:不要な古いデータは計画的にアーカイブ、もしくは削除しましょう。
- インデックス最適化:頻繁に検索・フィルター対象となる列にインデックス設定を検討します。
- 検索最適化:クイック検索やリレバンス検索設定をチューニングすることで、体感速度が大きく向上します。
ベストプラクティス:データ保持ポリシーを定め、ライフサイクル管理(例:2年以上前のデータをアーカイブ)を組み込みましょう。
モニタリングと継続的チューニング
システムは「構築して終わり」ではありません。モニタリングと継続的チューニングも必要です。
- パフォーマンス指標監視:フォームロード時間、プラグイン実行時間、API応答時間などのKPIを定期チェックしましょう。
- Application Insights活用:Azure Application Insightsにより、実際のユーザー操作に基づくボトルネック分析が可能になります。
- 負荷テスト:本番稼働前に負荷テスト(Load Testing)を実施し、想定トランザクション量に耐えられるかを検証します。
ベストプラクティス:
月次または四半期単位でパフォーマンスレビューを実施し、問題が起きる前に対応する文化を育てましょう。
まとめ
Dynamics 365のパフォーマンス最適化は、開発者だけでなく、アーキテクト、コンサルタント、管理者すべての責任です。
フォーム設計、データ取得、連携方式、インフラ設計、データ運用まで、多角的な視点で設計・レビューを行うことで、
高いユーザー満足度とシステム品質を実現できます。
パフォーマンスを意識した設計・運用が、成功するDynamics 365プロジェクトの鍵となります。
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